2023/05/22
「⾼度循環型社会の実現」に向け、リコーでは新製品製造上の新規投⼊資源の削減が掲げられました。新たなデジタルフルカラー複合機を開発するにあたって設定された⽬標値は「再⽣樹脂使⽤率50%」。リコーの主⼒商品であり製品サイズも市場規模も⼤きい複合機で、世界初のレベルの⾼い再⽣樹脂使⽤率を実現する意義はとても⼤きく、開発チームの想いも強いプロジェクトでした。その成果としての新しい製品デザインは、前回の記事でご紹介しています。
⼀⽅で、再⽣樹脂の⾼使⽤率とその他の多くの要件を両⽴するには多くの技術的な課題があり、各開発部⾨で様々な⼯夫と努⼒が成されました。そしてそれは、デザインにおいても同様です。
今回の記事では、再⽣樹脂と向き合ったデザインの難しさと、それをどうやって乗り越えたのかの過程を、デザイナーの役割や他の開発部⾨との関りを交えてご紹介します。
再生樹脂は、回収した樹脂材料を混ぜ合わせて作られるため、グレーや黒など暗い色は比較的作りやすいです。一方で、働く環境に置かれる製品にはある程度の明るい外観印象が求められます。さらに、再生材で明るい色を安定して調達‧供給するには、製品1台あたりの明るい色の樹脂は使用量に限りがあることが分かりました。この製品は高い再生樹脂使用率を実現する最初のデザインなので、後続のリコー製品に影響を与える雛型にもなります。そのためデザイン以外のあらゆる部門を巻き込んで、検討がスタートしました。
他部門からは、明るい色を使わない外観など再生材の課題や制約に有利なデザインとすることで環境対応を訴えたデザインとして打ち出してはどうかという意見もありました。デザイナーとしては、環境負荷を低減するための施策だとしても、それを言い訳にせず、働く空間やお客様に受け入れられるデザインと品質を大事にしたいという想いもありました。環境対応のためのデザインとお客様の求めるデザイン。多様な要件をシンプルな一本の線で結ぶようなデザインを目指しました。
最も⼯夫が必要だったのは配⾊でした。本体の側⾯をカラーパネルで付け替えできる実⼨モックアップを作成。再⽣樹脂の要件を踏まえながら、あらゆる⾊の組み合わせを検証しました。CGでのモニター越しの検証ではなく、実物で⼤きさや⾊を⾁眼で⾒ることを重視し、お客様が実際に⽬にする状況に近づけた検証を⾏いました。
お客様との接点が多い国内と海外の販売部⾨では、各案の配⾊がお客様に受け⼊れられそうかのヒアリングを実施。設計部⾨では、各案の開発課題などを抽出してもらっています。検討の中で出たアイデアには、再⽣樹脂の調達リスクはあるものの明るいグレー単⾊で統⼀する案もありました。しかしモックアップを⾒てみると、明るいグレーとはいえ、複合機のサイズではグレーの⾊味の主張が強く、暗く古い印象になってしまいました。何通りもの案を検証した結果、外観で重要な正⾯と上⾯に明るいグレーを採⽤し、グレーが相対的により明るく⾒えるために黒い樹脂外装と組み合わせる案を考え、これを最終案としました。
明るいグレーの樹脂外装と同等品質の黒い樹脂外装、黒い外装を⽌める外観のネジには黒いネジを使う、これらはどれも当たり前のことと思われるかもしれません。しかし、再⽣樹脂や黒い樹脂外装においては、たくさんのハードルがありました。リコーではここまで⼤規模な再⽣樹脂外装の成型は初めての挑戦です。再⽣樹脂外装は⼨法精度を出すのが⼀筋縄では⾏かず、取り付けたときのガタつきや反りが出てしまうこともあります。また、通常は⾦型内の複数の樹脂投⼊⼝から流れてぶつかり固まった樹脂に成型跡が出ます。そして黒い樹脂は明るい色の樹脂よりも成型の跡が⽬⽴ちやすいのです。これらのハードルを部品成型部⾨と連携しながら試作と相談を何度も繰り返して乗り越えていきました。
外観として⾒えるネジも黒⾊ネジにしています。明るい色の外装が多くネジの色が一種類で済んでいた前⾝製品に対し、ネジの種類が増えることで組み⽴て⼯程に影響が出るため、こういった細かな部分でも⼀つ⼀つ相談しながら外観の品質を⾼めていきました。
複合機は本体だけでなく、多様な後処理をするためのオプションが10種類以上あります。前述同様の課題をすべての周辺機に対して解消する必要がありました。これらは全てを⼀⼈のデザイナーが担当するのではなく、複数⼈のデザイナーが連携して取り組んでいます。他部⾨、⾃部⾨での連携が結実した、「想いと⾏動の集⼤成」のような製品といえるのではないでしょうか。
白根 龍一
主に複合機のプロダクトデザインを担当。
新しい複合機の開発においては、販売区と連携し訴求ムービーやwebサイト製作にも携わる。
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