2025/02/19
RICOH Pro Z75は2023年に発売を開始したB2サイズのインクジェット枚葉印刷機です。 枚葉印刷機とはカット紙を印刷するタイプで、このPro Z75はその中ではリコー製品内で最大となります。同じような大型の印刷機としては輪転機のようにロール紙に印刷する連帳印刷機RICOH Pro VCシリーズがあります。いずれもオフィスやご家庭にあるようなプリンターとは違って工場で使われる大型の生産機器で、左右の周辺機を含めた幅は12mほど、一番高いエンジン部分の高さは2mを超える大きな製品です。 本製品では、お使いになる印刷業のプロフェッショナルなお客様のニーズに応えるよう開発プロジェクトを進めました。この記事では、その開発プロジェクトにおけるプロダクトデザイン検討の内幕を、開発の段階に沿って紹介します。
開発の初期段階では製品の完成イメージをなるべく早く関連メンバーとシェアすることを目的に、1/10スケールのコンセプトモデルを作成しました。特に注意したのはメンテナンス作業に関わるユーザビリティーの点です。この規模の印刷機は、設備機器として継続して運転できるようにユーザー自身が多くのメンテナンスを行います。一部のメンテナンス箇所は高い場所にあり、そのままでは手が届かないため、ユーザーがメンテナンス作業するために乗る場所を設ける必要が考えられました。それまでリコーでは人が乗るような製品を開発した経験がなかったので、できるだけ早い段階でこの課題を具体化することで、開発チームの認識合わせをすることができました。
次の段階では、操作性のあるべき姿を提示し、実際の方式や寸法に反映します。 Pro Z75の作業者は紙・インクの補充や、出力される印刷が正しいかどうかを確認して是正する作業を行います。一連の印刷作業は1名で行うことが前提のため、機器の右端の給紙部に紙を補給し、左端の排紙部で印刷物を取り出すといったように機器の右から左まで移動する必要があります。性能を引き出すため機器の大きさはなかなか変えられませんが、担当デザイナーの現場観察に基づき、作業導線を想定した作業場所の適正な配置を考えました。 ひとつは操作パネルの位置の見直しです。従来機はこれほど大きい機械ではないので操作パネルは中央部分に設置する例が多いですが、Pro Z75では機器の左端に寄せて排紙部の近くに配置しました。これにより作業者は排紙される紙の印刷状態を確認して、すぐさま操作パネルで修正を指示することができます。 他にも、印刷されたB2用紙を広げて確認するために簡易検査台を設けることも提案しています。当初このPro Z75にはなかった仕様でしたが、デザイン部門の検討と提案を経て製品反映するに至りました。
試作機が出来上がると、操作性の検証と改善の段階になります。 オフィスでお使いのプリンターやコピー機の場合、重度の不具合が発生した場合はサービス担当者が対応することが多いですが、工場設備として使われるPro Z75では、不具合が起きた場合に生産が停止してしまうため、早期復旧できるようお客様自身で多くのメンテナンスを行えるように設計されています。 メンテナンス作業のうちのいくつかは、機器の内側に手を入れて作業する場合や、作業者自身が入り込んで作業する場合もあります。そのような作業でも安全かつ素早く作業できるように、取っ手・ボタン・注意表示などが分かり易く自然に操作できるものにすることがデザイナーの課題です。そのために試作機を検証して問題点を見つけ、改善を繰り返していきます。
展示用に前面にラッピング処理が施された状態です。このようにお客様先のニーズに合わせてオリジナルのグラフィックが追加されてご使用されるケースもあります。
このようなデザイン開発を経て製品化したPro Z75は2023年に発売され、2024年の6月には世界最大の印刷機器展であるdrupa 2024に出展しました。 drupaとは4年に1度開催される世界最大の印刷機器展示会です。印刷機の祖ともいえる活版印刷を生み出したデュッセルドルフの地で開催され、広大な展示エリアに世界中のプリンターメーカーの大小様々な印刷機やシステムが一堂に会する展示会です。 リコーも会場にブースを設け、いくつかの製品・サービスと共にこのPro Z75を堂々展示して世界のお客様に広くアピールしました。製品担当したデザイナーも展示会に立ち会いお客様のご意見を直接聞くことで、更なる改善のためのヒントを得ることが出来ました。
大型の機器の開発は、デザインする対象も多く、開発期間も長期にわたることもあり、多くのデザイナーが関わって連携しながら取り組んでいます。さまざまなデザイン施策を盛り込んだ本製品は、国内外からも評価をいただき、2022年度のグッドデザイン賞、2023年のiF賞を受賞することができました。