2023/02/08
小松崎: 平澤さんは普段、どんな仕事をしているのですか?
平澤: プロダクションプリンターといって、印刷工場などで使われる大型の商用印刷機のUIをデザインしています。
小松崎: 家庭用プリンターと商用印刷機はどんな違いがありますか?
平澤: まず、機器の大きさと価格の規模が違います。商用印刷機は大きいもので10メートル以上ありますし、価格はとても高価です。 それから、冊子やDMなど、商材となるものを印刷するところが大きな違いですね。高速でハイクオリティであることが求められているため、高効率かつ高精度で印刷するための機能が詰まっています。
小松崎: 自分じゃとても買えないような、大きなものを作ってるんですね。
小松崎: 商用印刷機を担当する上で、難しさはありますか?
平澤: 専門知識をつけながら業務を行うことですかね。特に1・2年目の頃は、商用印刷についての知識や、実際に機器が使われる現場での作業プロセスを学びながら業務を行っていました。
小松崎: 業務の中で、学びの機会が設けられているのですか?
平澤: 商用機器を担当するデザイナーは、お客様先にヒアリングにいく機会が頻繁にあります。現場を知らないと、お客様にどんな困りごとがあるのか分かりませんし、なるべくお客様の視点に立って現場で観察することや、ヒアリングしていくことが学びにつながります。
平澤: それから、社内で商用印刷機が使用できるので、印刷フローを体験できました。入稿データを作るところから、印刷前の調整、そして印刷、断裁※や折り目加工、最終的には梱包までを体験しました。
※ 印刷前や製本などの仕上げの際に、複数枚の紙を断ち切り揃えること。
小松崎: 自分でひと通り経験するのは重要ですね。
平澤: そうですね。断片的な知識だけでなく、一連の作業を経験することで、印刷前後のプロセスとの連携性なども重要な要素だと気づきました。お客様の動線や、ストレスに感じる部分を体感できたのは学びになりました。
小松崎:商用印刷機ならではのUIの特徴はありますか?
平澤: 商用印刷機のUIは、WEBアプリケーションのように画面だけで完結することがなく、マシン本体との連携を考えなくてはいけません。 例えば、画面上でエラーの起こっている箇所を表示します。作業者は確認のため、画面から数メートル離れた問題の箇所へ向かいます。この時、機器のどこでどんなエラーが起きているのか把握して、的確に問題を解消しなければいけません。お客様を導くように画面をデザインする必要があります。
小松崎: 現場を見ることの重要性を感じますね。
平澤: リコーの商用印刷機は、日本だけでなく海外でも使われています。海外の現場を実際に訪問して、需要を把握する活動も行っています。
小松崎: 海外の現場を見て、印象に残っていることはありますか?
平澤: 商用印刷機って、大きい工場にしっかりとスペースを確保しておかれるイメージがあると思います。ですが、今回は小規模な工場も見学させていただきました。フローリングの一室に機器がおいてあったり、機器同士の隙間に余裕がなかったり。あるところでは、紙の湿度・温度調整のため、マシンの上に扇風機が置かれている現場もありました。
小松崎: 予想外の使われ方でイメージが変わりました。まさしく、現場でしか得られない体験ですね。他にはどんな学びがありましたか?
平澤: 文化の違いによってお客様の繁忙期や印刷物の内容に違いがあったり、気候など環境の違いによって印刷作業にどのような影響があるのか確認することができました。 身長も大きく、自分とは全く体格の違う人が、機器のメンテナンスで細かい部分に手を入れ込んで作業する場面があったり、UI画面で使われている用語のニュアンスに違いがあることなど、現場で観察しながら学ぶことができました。
小松崎: 家庭用プリンターではできない特殊な印刷も、商用印刷機ではできるのでしょうか?
平澤: 商用印刷機は家庭用プリンターと違って、特色※を使用できたり、合成紙や透明フィルムといった用紙種類に対応しています。特殊な印刷の設定やメンテナンスには、より複雑な操作が必要になって来ます。
※ 特別な色のトナーやインクのこと。
小松崎: 複雑な画面を整理するのは相当根気が必要そうですね。
平澤: 複雑な画面こそ、UIの見やすさや使いやすさが求められています。例えば、とても厚みのある紙に印刷したい場合、その調整がやりづらかったら、お客様の仕事に影響が出てしまいます。そこに、使いやすい画面と機能があったら、特殊な印刷もどんどん受けることができて、お客様の商売の幅を広げることにもつながると思います。私たちが作っているプリンターで、どんな印刷ができるか知ってもらい、お客様も再現できなくてはいけません。そのために、使いやすい画面が必要になってくると思います。
小松崎: UIによって仕事の幅まで影響を受けてしまうのですね。
平澤: そうですね。ただ普通に印刷するだけではなく、商用印刷機の特色印刷を活用して付加価値をつけることで、印刷物を貰った時の情報や経験が変わると思います。そこに、商用印刷機で印刷する価値の本質があるのかなと思います。
とても高機能な商用印刷機は、細かい設定や調整が必要になってくるので、画面の見やすさ・使いやすさを向上させるための検討箇所がすごくいっぱいあります。そこを、パズルのピースのようにうまく組み立てられると、すごく達成感がありますね。それから、自分が「こう使ってほしい」と考え改善した画面を現場で見ていただいて「使いやすい」とフィードバックをいただけると、狙いが一致できた、お客様のニーズに応えることができた、やって良かったと嬉しくなりますね。